サーフィンをやってみたい、サーフィンを上達させたい、そう思ったならば「サーフィンスクール」に入ることはとても大切だ。ビギナーなら歴の長いサーファーと一緒に海に入るのもよいが、それが安全で正しい情報とは限らないこともある。まずはオフィシャルなサーフショップ主催スクールか、プロサーファーが運営するスクールに入会し、必要な基礎知識、ギアの基本、スタンスやテイクオフフォームの習得からはじめるのがベストといえるだろう。
また、ある程度テイクオフができるようになってからのネクスト・ステップを考えているならば、上達のためのスクールで学ぶのも良い。ボードに立ったあとのプロセスは、ともすれば我流に陥りやすい。自分のクセは客観的に指摘されないとわからず、そのまま上達を妨げることにもなるからだ。
千葉の一宮にある老舗サーフショップ「HIC千葉ストア」は、ビギナーのためのサーフィンスクールを行っているほかに、定期的に「HIC Girls Surf Camp」という上達のためのスクールを開講している。
この「HIC Girls Surf Camp」がすごい。実際にキャンプをやるわけではなく、“サーフキャンプ”なる単語の理由は、「ビリーザブートキャンプ」というストイックなまでの集中型のエクササイズがかつて流行したことを想像すれば理解しやすいかもしれない。その場だけのワンショットのスクールと違い、かなり考えられた“仕組み”によるサーフィン改善プログラムが継続可能な形で展開されるのである。
日本を代表するトップウィメンズプロサーファーの谷口絵里菜プロと水野亜彩子プロが講師をつとめるこのスクールは、まずはカルテを作成するところからすべてがはじまる。実際に海で上達、改善の指導を行い、海から上がってからも尚、カルテを元に弱点を修正していく。それが繰り返し、繰り返し指導され、自己認識し、修正を行うことで、真に上達していくという本格的なものなのである。
この日、参加したのはすでにサーフィン歴10年の飯島さんと、サーフィン7年の新庄さん。数々のサーフィンスクールを経験し、現在は上達のために「HIC Girls Surf Camp」にたどり着き、谷口プロ、水野プロからレクチャーを受け続けているというキャリアの長いサーファーだ。
海に入る前、その日に自分が解決すべき「課題」を抽出しカルテに書く。そしてウェットスーツに着替えたら、さっそくサーフボードについて谷口、水野プロからアドバイスが送られていた。この日、猛暑のなかで谷口プロが指摘したのはWAXの整え方である。
WAXをはがす時に用いるコームのギザギザした部分を使い、デッキに塗られたWAXを直前に逆立てるようにすることで、ワックスのグリップを取り戻せるようになる、との指摘だった。このスクールではサーフボード選び、テイクオフ、ボトムターンなどの基本に加えて、脚力や体力のない女性の日々の過ごし方、ギアのケアにおけるまで、すべてにおいてプロが回答していくスタイルをとる。言わばパーソナルトレーナーのようなスクールなのである。
ビーチに到着すると、すでに何年ものサーフィン経験を持つ飯島さんと新庄さんがすぐに海にパドルアウトするかと思いきや、「課題」を確認しながら重要なスタンスの確認、ライディング時における「目線」の重要性を直前で脳にイメージ付けさせていった谷口プロと水野プロ。 この日、一宮は腰サイズ、オンショアぎみのコンディションとなったが、混雑もなく乗れる波がいくつもブレイクする絶好のスクール日和ともなった。波に乗れば直後に沖で谷口、水野プロが間近でアドバイスを送るという徹底的指導。1時間超にわたり、リアルなトレーニングが繰り広げられていった。
また、その指導の間「HIC Girls Surf Camp」は重要な工程を別途、進行させている。それが陸からの映像撮影である。サーフィンスクールでは映像撮影を行うのが一般的ではあるが、それが単なる記念撮影であることもよくある。HICストアは熟達したスタッフがスクール中のライディングを隈無く録画する。この日、HICサーフストアを管理しているベテランスタッフの御園みづほさんが、手際よくスクール参加者のライディングを映像に納めていた。
海から上がると休憩する間もなく開始されるのが、映像を見ての修正アドバイス。本人は映像を見ない限り客観的な自身のライディングを把握することはできない。御園さんが撮った映像を冒頭から再生させ、海で起こったタイムラインを振り返るように見直していく。「課題」に対して、実際にどういう行動をとっていたのか、客観的に映像を見ながら、即座に修正箇所を叩き込んでいくスタイルだ。
こうして実際に見る映像は、自分の想像とまったく違うものだ。映像の自分を見ながら、その時の自分の行動や目線や考えていたことを当時と「すりあわせる」ための作業が行われていく。この日の新庄さんは「テイクオフ後、何も出来ないことを改善する」ことを課題とし、飯島さんは「良い場所から乗れるようにする」ことを課題としていた。テイクオフの際のポジショニングの悪さや、ロングライディングできない理由は、目線の問題でもあることを体感し認識をして、スクールは終盤に差し掛かかっていった。
最後の作業は、このスクールが「Surf Camp」ある所以でもある。つまり、次ぎの「課題」が、さっそくこの日に抽出されることだ。1日で断絶させることなく、更に次ぎの「課題」を今日のうちに上げておくアクションこそが、まさに「HIC Girls Surf Camp」の連続性の醍醐味でもある。
上達のためのサーフキャンプ。まさに余地を残さない徹底的なHIC流の指導によって成り立っていた。谷口プロの野性味と知性的な判断、そして世話焼きな気質をうけついだ水野プロ。多くの経験を積んできたふたりの名プロコンビが展開するパーソナルトレーニングは、おそらく、他では体験できない入念さを持つ。
この日、多くを学んだ飯島さんと新庄さんのふたりの女性サーファーと、これからもサーフィンが上手くなりたいという女性の願いに、この名コンビは明日も答え続けていく。
取材協力:HIC JAPAN
Terrestrical Inc 岡田貴子
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