[コラム]老舗サーフブランド・リップカールのIT戦略
このところ、サーフィンの世界最高峰ツアーWCTは初のブラジリアン世界チャンピオンの期待を集めるガリブリエル・メディーナ、そしてケリーのV12を阻んだミック・ファニングといったRip curl(リップカール)勢が目立つようになってきた。そしてちょうどRip curlが日本で本格リスタートを切るタイミングにあわせるように、秘密兵器が日本でも発表される。
GPSとログ機能を備えた腕時計「SEARCH GPS」と「SEARCH APP」というスマホアプリだ。
このdualツールは、いわばRip curlがITとして先陣を切った形となり、近い将来「トップシェアを獲りますよ」というメッセージにも聞こえる。すでにリリースされているアプリを見れば、その本気度がみてとれる。
Rip curlから発売予定の時計は、いわばウェアラブルウォッチとして加速度センサーなどが搭載され、海の中でのアクションを記録、通信によってクラウドに情報を送り蓄積しログ化、サーファーは常にスマートフォンやウェブブラウザを介して情報を参照する、という仕組み。どこのサーフポイントに入ったかロケーションログ、コンディション、乗った波数、乗った距離、海に入っていた時間などのログが残せること、またトップスピードやロングライディングの最長距離などがレコードされ、GPSとログ機能のみならず、世界中のサーファーと友達になり情報交換が可能という、いわばソーシャル性も搭載している(情報を公開したくなければ非公開に設定可能)。
もちろんリップカールのアイコンであるプロサーファーであるメディーナや昨年のディフェンディングチャンピオンのミックファニングといったトップサーファーの直近のデータとも直結しているという点では、リアルタイムに情報が開示されることも魅力だ。
さて、このGPSウォッチ& Appだが、サーフィンのメジャーブランドでのサービス商品化は初のことであるが、ご存じNIKE社はiPODの時代からログ&トラッキングシステムを早期に発売し、現在のRUN業界は他社参入も甚だしく顧客争奪戦が繰り広げられている。
それを考えれば、サーフィンでのこのウェアラブル・GPSプロダクト展開は、あまりにあまりに遅かった。
海という特殊エリアでの使用が陸使用のようにゆかずセンサーの精度上の解決にも時間がかかった側面があったのかもしれないし、この領域に踏み込むには資金的にも知識的にもパワーを必要とするために時間がかかったのかもしれない。Rip curl社が今回の開発に専門知識人のデジタルカンパニーであるVMLとパートナーシップを組んでいることでも、既存ナレッジでは対処しきれないことが容易に想像できる。
しかしウェアラブルの役割を担うことになる今回のRip curl Watchは、見た目にはオールドタイプの時計形状である。タウンユースを兼ねているという理由かもしれないが、時がたてば、この計測器となる腕時計が小型化、または他の「何か」にとって代わると考えられる。
1つは、ウェアラブルをサーフボードに埋め込む方法。サーフィンをトラッキングするためには、サーファーの体かサーフボードにセンサーを組み込む必要があるが、今のところ時計が手っ取り早いためにこの形になっていると考えられる。RUNでシューズに組み込んだ手法を考えれば、サーフボードにそれが内臓されるという考えは、普通にあり得ることである。
昨年、かのベンツが「シルバー・アロー(銀の矢)」をプロデュースしたことは記憶にあたらしい。
(参考記事 http://www.bluer.co/surfingnews/?p=20568)
昨年、ビッグウェイバーのギャレット・マクナマラがポルトガルのビッグウェイブポイントのナザレで距離、スピードなどを計測するサーフボード「シルバー・アロー」に乗り、その実証実験がなされている。近い将来において、それはリップカール社とは限らず、サーフボード内蔵型は発売されるはずだと思われる。そしてもっとも確度が高いのはFINメーカーがその動きをみせることである。サーフボードに内蔵することは制作物理上は難しくはないと想像できるが、埋め込めたとしても脱着が非常に難しい。ならば脱着式のフィンにセンサーを内蔵させる方が早いのである。
他にはウェットスーツとの親和性もあるが、ウェットスーツを着るとは限らないワールドワイドな事情を考えれば、専用アイグラスをGo Pro社がgoogle glassに対抗して開発してもおかしくはない。(もちろん、そのような情報は一切筆者は聞いていない)。
それほどまでに、今回の時計はスピーディに多くのサーファーにリーチさせる方法ではあるが、今後、当たり前のようにサーフボードやFINにその機能がデフォルトに備わりスタンダードになる可能性は十分にある。今は、サーフィン市場では、まさに開発の黎明期と言えるだろう。
さて、この「SEARCH GPS」という時計と「SEARCH APP」というスマホアプリだが、本質的なことを考えると、これは何のための製品か? という問いかけが必要だ。
たとえばRUNは、自分が走った距離、ラップタイム、消費カロリーなど、「少しでも長い距離を走れるようになりたい」「少しでもラップタイムを上げたい」「カロリーを消費して痩せたい」などといった、消費者にとって非常にわかりやすい課題を解決するツールとなっている。
果たして今回、この2つが解決するものとは何か、といえば「アクション回数、スピード」など、かなりの上級者的なものにも思える。スポーツとしてのサーフィンが根強い大国オーストラリアならではの発想でもあると思われ、おそらくはカジュアルなサーファーにとっては究極的に求めることのない機能、つまりトップスピードや距離がどれだけ伸びたのか、は究極的な悩みではない、とも言えるだろう。
しかし、「SEARCH GPS」と「SEARCH APP」にビジネス勝機が感じられるのは、これが結局のところ、『情報クラウド化』と、『ソーシャル』が本質的なビジネステーマである点だ。
さまざまな場所へサーフトリップに行く人もいれば、いつも同じ場所でサーフィンしている人もいるだろう。わざわざチェックインしなくてもログ化してくれるとすれば、それは、大切な自分の”サーフィンライフメモリー”そのものである。
サーファーとしての「アルバム」をいかに作ることができるのか、Rip curlのオーストラリア的なアスリートツールを超えた”サーフィンライフツール”となれば、オールラウンドなタイプのサーファーに受け入れられるであろうし、それがクラウド化されるのだがらサーファーは一度ログを残したら、他のログに乗り換えることをしない、という点では先手必勝である。
「ライフログアルバム」「グローバルなサーフィン・ソーシャル」「非公開友達グループ」
わかりやすくいえば、これがビジネス的キーワードである。
先陣を切ってリリースしているRip Curl社は、うまくいけば現在のサーフブランドとしての売上やファンのパイ拡大にもつながることになるはずで、重要なビジネス勝負への先手を切ったというのは、そういう意味合いである。
しかし気になるのは、Hurley社の存在である。
前述のNIKE社を親会社に持つHurleyは、この戦略に対してどう対処するのだろうか。すでにNIKE社が最強のFuel band+appのようなウェアラブルとアプリシステムを所有しているのだがら、逆転は容易にも思える。
現在のWCTツアーをフォローするビッグサーフィンカンパニー。残すはクイックシルバー、ビラボン、Vansなどが存在するが、サーフィンにITは関係がない、と考える人もいるだろうし、否、ITがフックとなり牙城を築き、今までトップランナーが後退していく可能性もあると考える人もいるだろう。
筆者は後者だと考えるが、さらにはサーフィン界におけるサードウェイブがあるとも思える。それはGo Proのような企業だったりドローンのような製品をリリースするカンパニーかもしれない。思いもよらぬサードウェイブが、5年後には、現在のWCTフォローカンパニーをビジネス上ひっくり返し、完全にWCTをリードする可能性さえある。
サーフィンはアイコンとなるサーファーに依存することが多い。つまりブランド戦略もが合わせ技として大切でもある。そして、ブランドの使命は、そのブランドのネクストサーファーをいかに準備しておくかもポイントになる。
さてサーフィンにおけるIT化。
もっとも重要なのは凄い技術ではなく「サーファーにとっては便利で楽しく有益なものがほしい」というシンプルなニーズ。だからそ、Rip curlの本製品はマニアックながらも、基本を網羅してきているし、しかし、まだ始まったばかりのこの領域でもありβ版でもある。消費者であるサーファーニーズに基本に忠実に提供できる企業やサーフブランドが受け入れられるのであり、まさにどこからとなく、新興勢力が誕生してくるだろう。
しかし、言えることは、まさにRip curlは、その一歩をどこよりも早く踏みだした、のである。
これは競合他社にとっては、只事ではない出来事、なのである。
●関連記事
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●rip curl Search GPS/Search APP
http://searchgps.ripcurl.com/welcome/the-app.php
●rip curl app
https://itunes.apple.com/app/id840643474?mt=8
※Photos by All Rip curl-site
※商品に関することはRip curlサイトをご覧ください。
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